賃上げは大企業だけの話ではありません
内山公認会計士事務所の内山でございます。
今月も顧問先様をはじめとしたお客様へ向けて税理士・会計士としての立場から、専門的な知識・情報をわかりやすく解説していきたいと思います。
注目された衆議院議員選挙は自民党の圧勝に終わり、世間は「食料品の消費税0%はいつからやるの?」と盛り上がっていますが、
確かにこの物価高では一円でも支出を抑えたくなるのは当然と言えます。
そして、支出を抑えることも重要ですが、収入を上げるという点も忘れてはなりません。
間も無くニュース等でも今年の春闘について報道が始まりますが、読者の中には
「賃上げは大企業の話で、うちにはまだ関係ない」
「余裕のある会社だけがやっていること」
と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、最近の各種調査や統計を見ると、賃上げはすでに中小企業にとっても無視できない経営課題になりつつあります。
そこで今回のコラムでは、その現実を客観的に確認したうえで、税理士の立場から賃上げに伴う税務面・コスト面の注意点を整理していきます。
目次
- ○ データが示す「賃上げは中小企業にも及んでいる」という現実
- ○ 賃上げを進める際に見落とされがちな税務上の注意点
- ・賃上げに伴う「社会保険料負担」は見過ごせない
- ○ 税務・社会保険・資金繰りを含めて設計するという考え方
- ○ 今回のまとめ
データが示す「賃上げは中小企業にも及んでいる」という現実

まず押さえておきたいのは、「中小企業は賃上げをしていない」という認識が、必ずしも実態と一致していない点です。
たとえば、東京商工リサーチなどが公表している倒産動向を見ると、人件費の上昇を要因の一つとする倒産が増加傾向にあります。
注目すべき点は、こうした影響を受けている企業の多くが中小・小規模事業者であるという点です。
中小企業における賃上げは、大企業のように業績拡大を背景とした前向きなものばかりではありません。
• 人手不足による人材確保
• 最低賃金引上げへの対応
• 同業他社との賃金水準の調整
といった、「やらなければ事業が回らない」という理由による賃上げが中心になっているケースも多く見受けられます。
一方で、大企業と中小企業とでは、価格転嫁力や利益率、内部留保の厚みに大きな差があります。
同じ数%の賃上げであっても、中小企業にとっての経営インパクトは決して小さくありません。
賃上げの問題は、「何%上げたか」ではなく、その負担を今後も継続して吸収できるかどうかにあります。
賃上げを進める際に見落とされがちな税務上の注意点

賃上げによって増加する人件費は、原則として損金算入が認められます。
そのため、「人件費が増えるのだから、税務上は特に問題ない」と考えてしまいがちですが、実務では注意すべき点が少なくありません。
特に注意したいのが、役員給与・役員賞与との関係です。
従業員の賃金を引き上げる流れの中で、
「従業員が上がるなら、役員も少しは上げてもよいのではないか」
「業績が厳しいので、期中に役員報酬を調整したい」
といった判断をされることがありますが、役員給与については税務上のルールが非常に厳格です。
ご存じのとおり、役員給与は原則として定期同額給与でなければ損金算入が認められません。
期中での増額・減額についても、一定の要件を満たさなければ否認されるリスクがあります。
賃上げ局面では、
• 従業員給与は問題なく損金
• 役員給与のみが否認
という形で、結果的に法人税負担が増加してしまうケースも実務上少なくありません。
また、賃上げに関連して助成金や補助金を受給する場合、その多くは課税対象となります。
「お金は入ったが、税金を考慮していなかった」という事態に陥らないよう、収益計上時期や税額への影響も含めて整理しておく必要があります。
賃上げに伴う「社会保険料負担」は見過ごせない
賃上げを検討する際、税務と並んで見落とされやすいのが社会保険料の負担増です。
健康保険や厚生年金といった社会保険料は、原則として会社と従業員がほぼ折半で負担します。
つまり、賃金が上がれば、従業員の手取りだけでなく、会社負担分の社会保険料も同時に増加するということになります。
賃上げを行った場合、
• 給与そのものの増加
• それに連動する社会保険料の会社負担増
を合わせて考えなければ、実際の人件費総額は正しく把握できません。
また、社会保険料については、少子高齢化を背景に、制度全体として中長期的な負担増が続く可能性が高いと指摘されています。
現時点の保険料率だけを前提に判断してしまうと、将来のコスト上昇を十分に織り込めない恐れがあります。
賃上げを「今の給与水準」だけで判断するのではなく、今後の社会保険料負担も含めた総人件費として考えることが重要です。
税務・社会保険・資金繰りを含めて設計するという考え方

賃金は、一度引き上げると簡単には元に戻せない固定費です。
税務上は問題なく処理できていたとしても、
• キャッシュフロー
• 借入金の返済余力
• 金融機関からの評価
に、時間差で影響が出てくることがあります。
実務の現場では、
「税金は減っているのに、資金が苦しい」
「売上は横ばいだが、人件費と社保負担で余裕がなくなった」
といった相談を受けることがありますが、その背景には、賃上げと社会保険料負担を十分に織り込まずに判断してしまったケースも少なくありません。
今回のまとめ

賃上げは「大企業の話」ではなく、数字で判断すべき経営課題
賃上げは、もはや大企業だけの話ではありません。
中小企業にとっても、経営・税務・社会保険のすべてに関わる重要な判断事項になっています。
• 人件費の損金算入
• 役員給与の税務ルール
• 社会保険料の会社負担
• 将来の資金繰り
これらを切り離して考えるのではなく、総合的に設計することが重要です。
「周りがやっているから」「人が辞めると困るから」という理由だけで判断するのではなく、
自社の数字をもとに、無理のない形を検討することが、結果として会社と従業員の双方を守ることにつながります。
賃上げを検討する段階で判断に迷う場合は、早めに当事務所へご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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